不安障害と強迫性障害について
前回に引き続き、『カンデル神経科学』の話題。
ただし、今回はタイピングのことではなく精神疾患のこと、特に不安障害と強迫性障害についての備忘録だ。
まず、不安障害について理解するためにはその前段階として、"不安"と"恐怖"の違いを理解する必要がある。
日常会話においてしばしば混同される両者だが、そのメカニズムにおいても大部分が重複しているようだ。
明確な違いとしては、恐怖が実際に存在する脅威への反応であるのに対して、不安は明確ではない脅威への準備段階だ。
また、不安は恐怖よりも弱く長く持続する傾向にある。
恐怖や痛みは、現在の行為を中断し回避反応を引き起こすシステムであり、不安は微かな脅威の手がかりを見逃さないようにするためのシステムである。
不安障害は不適切な状況で不安が続いている状態であると理解できる。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、不安障害を
・パニック障害
・心的外傷後ストレス障害
・全般性不安障害
・社交不安障害
・単一恐怖症
の5つに分類しているが、『カンデル神経科学』ではこういった不安症状を完全に別々の障害に分けて理解すべきではないとしている。
寧ろ不安症状と抑うつ症状はDSM分類を超えて、スペクトラムとして存在していると理解すべきであるようだ。
通常、不安障害の治療において第一選択薬となるのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)だ。
SSRIが抑うつの第一選択薬でもあるのが、上述の主張の尤度を更に高めているように思う。
また、僕としては高用量のSSRIが強迫性障害に対しても有効であるというのが非常に面白い。
DSM分類はあくまで目安であり、多くの精神疾患は断続的ではなく連続的に捉える必要があるのだろう。
対して、強迫性障害は特定の行動や思考を繰り返してしまう状態である。
fMRIを用いて強迫性障害の患者の脳を観察すると、実際に異常な活動が観測できるようだ。
また、強迫性障害は選択メカニズムの機能障害として捉えるとより理解を深めることができる。
競合する選択肢が存在したり、注意の切り替えが難しくなった時に、特定の行動や思考がループする。
これも不安障害と共通する部分があるように思う。
実際不安障害の患者は他の精神疾患を併発しやすい。
強迫性障害の記述は不安障害に比して少なかったが、少なくとも僕はこの2つが非常に密接に関わり合っていると理解した。
今回これらを取り上げたのは、僕が今年に入ってから不安障害のような状態であると診断されたからだ。
正確には診断されたから興味を持って不安障害について調べ始めたと言ったほうがよいが...
強迫性障害については診断されていない(そもそも医者にうったえてすらいない)が、前から自覚症状があり、
『カンデル神経科学』を読んだことで、以前からの自分の内省を実際の神経科学的知識が裏付けてくれるような感覚を得られて非常に面白い。